介護職養成教育における専門性の形成

教育カリキュラムの分析を通して〈長崎純心大学人間文化研究論文叢書2〉

著者: 荏原 順子

発行年月: 2014年5月(大空社刊)

価格:定価3,850円(本体3,500円+税10%)

ISBN:978-4-283-00958-5

体裁:B5判・178頁・並製・カバー装

介護職養成教育における専門性の形成

「介護職」は医療福祉の一分野を担う重要な職種となった。介護福祉士の職能に多様さと高度化が必要となり、「専門職」としての技術と理論を教育する場が益々求められている。「介護」は初め看護・保育と同様、家庭の中で自然に行われてきた行為であった。日本での「介護職」は1950年代後半頃に芽生え、その後、政策や社会環境・意識の変遷にともない、定義・身分保障・業務内容などが変化しつづけている。介護が職業となった時期、専門資格のない時代から専門性が確立する現在まで、どのような介護が実際に行われ、また介護職を養成する教育機関が人材育成にいかに腐心し、実のあるカリキュラムを開発してきたか―。

介護福祉草創期から介護関連職の養成に携わってきた著者が、大学・短大・専門学校や各種講習会の介護職養成課程カリキュラムを幅広く収集し時系列・数量的分析で専門職の形成過程を明らかにする。介護・福祉の「歴史」研究に一里塚を画す!

キーワード:介護福祉学、介護福祉教育史、介護教育、介護職養成、介護福祉士、ホームヘルプサービス、家庭奉仕員、認知症介護、老人福祉、障害者、医療福祉、リハビリテーション、地域老年看護学、保健、看護、家政、生活科学、厚生・労働行政、社会福祉行政…

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介護の対象は「人間」である…
本書は、介護職養成カリキュラムの変遷・経過をたどり、それぞれの時代によって何が求められていたのかを探りながら、介護の専門性が形成されてきた過程を明らかにするものである。そこで見えてきたものは、法律によって与えられてきた専門性と本来あるべき専門性との「ずれ」である。しかしその「ずれ」は、介護教育者・研究者・介護職の歩み寄りによって軌道修正され融合する方向に進んでいる。それを可能にしている要因は、なにより「介護の対象」という存在である。対象者は人間であり「介護はその人の生活に働きかける」という点で一致しているからである。これまでの経過から「主婦でもできる」、「誰でもできる」といわれてきた介護は、すでに「ある一定の教育を受けなければできないもの」までに質を高められてきた。実際に、介護福祉士の養成教育を受けてきている職員と初任者研修のみを受けている職員には、明らかな違いがみられる。介護の技術は鍛錬すれば磨くことができるが、技術を裏付ける根拠の理解・福祉の思想・人に対する客観的思考を学習してきたか否かは、現実に大きな差を生んでいるのである。1850時間という教育はそれだけ意味がある。(「あとがき」 より)

【目次】

長崎純心大学「人間文化研究論文叢書」の発刊に思う 片岡千鶴子(長崎純心大学学長)

刊行にあたって 津曲裕次(長崎純心大学大学院教授)

序章 研究の目的、意義、課題、方法
第1節 研究の目的と意義
第1項 目的/第2項 意義
第2節 研究課題と方法
第1項 先行研究/1 介護職の萌芽からの変遷を扱った先行研究/2 介護の専門性に関する先行研究/第2項 研究課題/第3項 研究方法
第3節 定義と時期区分
第1項 専門職の定義/第2項 時期区分/1 教育カリキュラムによる時期区分/2 この論文における時期区分

第1章 介護職養成前史の研修 1956年から1967年まで
第1節 ホームヘルパー創設とカリキュラム
第1項 ホームヘルパー養成研修/第2項 介護職養成前史での研修カリキュラム内容/1 時間・カリキュラム構成/2 標準家事作業の活用/第3項 介護職養成前史における研修システム/1 事業内ホームヘルパー制度の特徴/2 婦人問題審議会の役割/3 未亡人や中高年労働者の失業対策/4 女中に対するイメージの転換
第2節 第1期の研修の背景
第1項 対象となる家族の状況/1 第1期の労働者家族の状況/2 第1期の農村家族の状況/第2項 家政婦と家庭奉仕員/第3項 家庭奉仕員派遣事業の創設/1 家庭奉仕員派遣事業の創設と波及/2 家庭奉仕員派遣事業の対象と仕事内容/3 労務型としての派遣制度

第2章 介護職養成開始期の研修 1968年から1986年まで
第1節 介護職養成開始と取り扱うカリキュラム
第1項 介護職養成研修及び教育の萌芽と形成/第2項 介護職養成開始期のカリキュラム内容/1 カリキュラム構成/2 研修テキストからみた介護の内容/第3項 介護職養成開始期の研修養成システム
第2節 第2期の研修の背景
第1項 介護対象者の増加/1 都市家族の様相/2 農村部の家族の状況/3 対象となる高齢障害者―脳卒中後遺症の増加/4 寝たきり高齢者の介護状況/5 リハビリテーションの状況/第2項 寮母と家庭奉仕員/1 家庭奉仕員が希望する研修会の内容/2 専門職の存在/3 短期大学・専門学校が時代の変化に応じた方向/第3項 家庭奉仕員事業の変遷と研修

第3章 介護職養成確立期の研修・教育 1987年から2009年まで
第1節 介護福祉士資格創設と取り扱うカリキュラム
第1項 介護職養成確立期における研修・教育の変遷/第2項 介護職養成確立期の養成カリキュラム内容/1 カリキュラム構成/2 介護福祉士養成カリキュラム時間の変更/3 研修テキストから見た介護の内容/第3項 介護職養成確立期の研修及び養成システム
第2節 介護職養成確立期の研修の背景
第1項 介護対象者の増加と範囲の拡大/1 介護対象の増加/2 介護業務範囲の拡大/第2項 在宅と介護施設の介護職/第3項 資格創設と介護保険

第4章 結果
第1節 時期区分と科目内容の変遷
第1項 時期区分/第2項 カリキュラム内容の変遷/1 講義系カリキュラム/2 演習/3 実習/第3項 介護福祉士養成制度カリキュラム内容の分析結果
第2節 各期のまとめ
第1項 介護職養成前史(1956年から1967年まで)/1 研修/2 カリキュラムの特徴/3 対象者のニーズ/4 介護職の社会的地位/5 研修・教育の特徴/6 専門職の存在/第2項 介護職養成開始期(1968年から1986年まで)/1 研修及び教育/2 カリキュラムの特徴/3 対象者のニーズ/4 介護職の位置/5 研修の特徴/6 専門職の存在/第3項 介護職養成確立期(1987年から2009年まで)/1 研修及び教育/2 カリキュラムの特徴/3 対象者のニーズ/4 介護職の位置/5 研修の特徴

第5章 考察
第1節 介護職養成研修の変遷
第1項 カリキュラム科目の変遷/1 全体の流れ/2 相談援助に関する科目/第2項 業務内容と研修システムの変遷/第3項 専門的知識の必要性/1 ボランティア活動の発想/2 有資格者の存在
第2節 専門性の視座
第1項 専門性の要件/第2項 専門性を形成する指標/1 介護業務の標準化の必要/2 業務の体系化への影響
第3節 介護職養成教育における体系化の指標/第1項 介護職養成教育におけるリハビリテーションとIC F/1 介護職養成教育におけるリハビリテーション/2 介護職養成教育におけるIC F/第2項 体系化に影響を与えた近隣職種の存在/1 「介護技術」理念の構築/2 専門職の存在

終章 結論
第1節 介護専門職の形成過程
第1項 時期区分/第2項 家事支援型ヘルパーの存在/第3項 専門性の形成への指標/1 「標準化」と「体系化」による形成/2 専門性の要件からの形成
第2節 生活福祉の専門職と求められる介護内容/第1項 介護の専門性と生活福祉/第2項 国が求める介護職と利用者にとって必要な介護

介護職養成教育関連年表/文献・資料/あとがき

【図表目次】

(序章)
図0.1 先行研究における対象と時期区分比較
表0.1 先行研究の時期区分と概要
表0.2 介護の専門性に関する先行研究
図0.2 カリキュラムの時系的・量的分析の結果による時期区分

(第1章)
表1.1 科目領域の分野比較表
表1.2 第1期のカリキュラムの時間と基本構成比較
表1.3 事業内ホームヘルパーが行う家事作業の範囲
図1.1 標準家事作業
表1.4 国勢調査職業分類 小分類の変遷
図1.2 日本の出産数の年次推移
図1.3 生存兄弟・姉妹数別人口割合
表1.5 家庭用器具の普及率
図1.4 主婦の家事生活時間
図1.5 世帯の推移
図1.6 出産場所からみた年次出生数の推移
図1.7 妊産婦死亡率の推移
図1.8 老人家庭奉仕員の人数の変遷
表1.6 新潟県農協生活指導員養成講習会日程表
表1.7 新潟県農協生活指導員養成講習会必須講習科目および講師一覧表
図1.9 平均寿命の推移
表1.8 家庭奉仕員制度派遣対象と主な業務内容

(第2章)
図2.1 老人ホームの推移
表2.1 第2期の研修の経過
図2.2 第2期 科目の分野比較表
図2.3 自営農業従事者の推移
図2.4 身体障害者の推移
図2.5 障害別身体障害者手帳新規交付数(宮城県)
表2.2 肢体不自由の原因別および障害学的区分と推移(宮城県)
図2.6 ねたきりの期間別介護困難事項
図2.7 ねたきり老人の日常動作の状態
表2.3 家庭奉仕員が希望する研修会の内容 1976〈昭和51〉年
表2.4 家庭奉仕員が希望する研修会の内容 1981〈昭和56〉年
表2.5 家庭奉仕員が希望する研修会の内容 1984〈昭和59〉年
表2.6 家庭奉仕員の保有資格割合
表2.7 保有資格の内訳
図2.8 家政学の大学生の推移
表2.8 家庭奉仕員70時間研修カリキュラム
表2.9 派遣対象と業務内容(1962~1982年)

(第3章)
表3.1 第3期で取り上げたカリキュラム
表3.2 第3期のカリキュラム分野比較表
図3.1 第3期のカリキュラム分野比較表
表3.3 家庭奉仕員採用時70時間研修(1982年)と360時間研修(1987年)
表3.4 段階別ホームヘルパー研修(1991年)
表3.5 チーム運営方式ホームヘルパー研修(1995年)
表3.6 介護福祉士養成1,800時間カリキュラム
表3.7 介護福祉士養成1,500時間(1988年)と1,650時間(1998年)の比較
表3.8 1,650時間と1,800時間 福祉系科目の比較
表3.9 1,650時間と1,800時間 介護科目の比較
表3.10 大項目「生活支援技術」の中項目
表3.11 中項目「④自立に向けた移動の介護」の具体的内容
表3.12 1,650時間と1,800時間 医学系科目の比較
表3.13 旧科目(1,650時間)と新科目(1,800時間)
表3.14 目的および前書きで触れている介護・介護技術についての記述
表3.15 要介護度別のサービス利用状況
表3.16 会津若松市の高齢者人口の推移

(第5章)
表5.1 通知にみる家庭奉仕員・ホームヘルパーの業務内容
表5.2 訪問時の業務比較
表5.3 介護職養成の経過
表5.4 「プロフェッション」の定義の整理
表5.5 介護技術の定義について述べられているキーワード
表5.6 筆者の職業と人数
表5.7 文献数と分野

【著者紹介】(えばら・じゅんこ)長崎純心大学大学院人間文化研究科前期課程修了、修士(学術・福祉)、同後期課程修了、博士(学術・福祉)。東海女子短期大学専任講師、新潟青陵大学看護福祉心理学部福祉心理学科教授を経て、目白大学人間学部人間福祉学科教授(執筆当時)。

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