里子事業の歴史的研究

福岡県里親会活動資料の分析〈長崎純心大学人間文化研究論文叢書1〉

著者:吉田 菜穂子

発行年月:2011年7月(大空社刊)

価格:定価3,850円(本体3,500円+税10%)

ISBN:978-4-283-00957-8

体裁:B5判・170頁・並製・カバー装

里子事業の歴史的研究

少子・高齢社会で変容をとげる日本の「家族」の姿―その中で〈里子=里親〉という関係は、今後見過ごせない重要なあり方になっている。里親「当事者」としての豊富な経験をもとに、現代日本の〈里子=里親〉活動を実証的に捉えた稀有な業績。

官庁資料のみに頼りがちな従来の研究を一新/里親会などの「当事者・経験者」からの直接取材を駆使した独自の資料蒐集と豊富な統計図表/戦後日本の「里子・里親事業」の歴史と実態が明らかになり、初めて現代日本社会の本質が見えてくる。

キーワード:里子、里親、実親、非血縁、養子縁組、家族、子どもの権利、児童相談、児童虐待、障害児、制度、福祉…

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いつかは母のような母親になりたい。 私はずっとそう思って生きてきた。

里母になるために訪れた児童相談所は、公的機関とは思えないほど貧弱な建物の中にあった。書類棚と机を備えただけの簡素な部屋に通された。
「もう 一 度よく考えて、それでも登録するならば、必要書類をそろえて、ご夫婦で来所下さい。」
そう念を押して、職員は里親の申請用紙を手渡した。半年後、里親登録が認められた。
里父・里母になってから、世の中の言葉に敏感になっていった。
「里親は専門職ではないですからねぇ。」
と、ある職員がつぷやいた何気ない一言が私を里親研究へと駆り立てた。

里親をどう評価すべきか。
非血縁児を育てるということはどういうことなのか。
里子の養育、養子縁組をどう位置づけるべきか。

この命題を解決するためには、丹念に里親のたどった道を検証するしかない。

里親は、実親でもなければ先生でもない。
唯一の親であることを望んで特別養子縁組をしても、
国家が決めた親にはなるが、生物学上の親にはなれない。
しかし、誰がなんと言おうと、
ただひたすら、子どもの幸せを願う親である。
ただひたすら、 子どもを守る親である。
ただひたすら、 子どもを慈しむ親である。

本研究を通して、 筆者は、 里 親はどこまでも親であるとの確信を得た。(「あとがき」より)

津曲裕次「刊行にあたって」より

(…)吉田さんは、これらの分析を通して、次の様な注目すべき結果を導き出している。
①児童相談所の伝達組織として発足した里親会が現在では里親による自助組織(会費制、会報、サロン、ピアカウンセリング、レクリエーション等)に発展してきていること。
②戦争直後は里親家庭には地域差があり、里親も、僧侶、保護司などの名望家中心であったが、現在は、一般市民が多く、あまり地域差が見られなくなったことを明らかにし、その実態を調べて、現在の里親には、里親家庭の実子、里子経験者がかなりの割合を占めており、その継承性がみられること。
③かっては、実親が存在しない里子が大部分であったが、現在の里親は、被虐待児、障害児、非行児など従来とは違った実親が存在する里子を受け入れている。そのため、「専門里親」、5~6人の里子を受け入れる「ファミリーホーム」など専門性や事業としての運営が必要な実態が増加していること。
④このような結果から、吉田さんは、里親制度そのものが大きな変わり目にあり、里親研究を、「非血縁児養育問題」として捉える視点をも提唱した。(長崎純心大学大学院教授〈刊行当時〉)

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【目次】

長崎純心大学「人間文化研究論文叢書」の発刊に思う 片岡千鶴子(長崎純心大学学長)
刊行にあたって 津曲裕次
凡例

序章
里子事業の前史/戦前までの非血縁児の養育
課題
1 問題の所在
里親研究の見直し(里親における養子制度の再評価)/子どもの人権クローズアップ/里親制度はなぜ進まなかったのか/登録里親・里子数の推移
2 研究目的と課題
方法
1 視点
福祉文化創造的視点・生活当事者としての視点
2 研究方法・手続き
3 対象
福岡県を中心にする里親会関係資料
4 用語の定義
言葉としての「里親」/児童福祉法における里親の検討/保護受託者制度/職親/特別養子制度

里親・里子事業の時期別分析/福岡県の児童相談所(管轄区域図)

第1章 里親事業期 1948(昭和23)年~1968(昭和43)年
(1)里親制度と保護受託者制度の椎移
(2)戦後混乱期における福岡県下の要保護児童
厚生次官通知「里親等家庭養育の運営に関して」/終戦後の世情について
(3)福岡県における里親制度発足から20年の軌跡
里親実態一斉調査の実施
(4)里親委託の状況

第2章 里子事業の草創期 1969(昭和44)年~1983(昭和58)年
(1)全国の動向
(2)福岡県里親会結成とその歩み
(3)里親委託と施設入所
(4)里親会活動―三里親会分立
(5)里親を取り巻く環境

第3章 里子事業の展開期 1984(昭和59)年~1997(平成9)年
(1)里親会活動と行政の支援
里親会の組織率
(2)特別養子制度運動と里親
(3)2度の全国里親大会の開催
(4)非血縁児養育の困難性
証言記録

第4章 里親・里子事業の再興期 1998(平成10)年以降
(1)里親の自助活動
「どんぐりキッズ」設立とその活動/自助グループ参加状況の変化
(2)2002年里親制度改革がもたらした里親会活動
(3)里親養育の実際
(4)新しい流れと「ファミリーホーム」
小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)の養育事例

終章
考察
結論
(1)里親事業の最盛期と里子事業の黎明
(2)里親家庭の継承性
(3)里子事由の変化と受託率の再検討
(4)時期区分の再検討

まとめ/残された課題/里親会年表/文献・資料/あとがき

【図表目次】

(序章)
表0.1岡山孤児院生の現況
表0.2図0.1全国登録里親・保護受託者数(家庭数)の推移1948~2008年
表0.3図0.2児童養護施設・乳児院・里親保護の推移
図0.3保護され児童養護施設・乳児院・里親宅で生活する児童数の推移
表0.4図0.4受託保護受託者数と児童数の推移
図0.5福岡全県(北九州市・福岡市含む)と福岡県里親状況の推移

(第1章)
図1.1登録した全国の里親数の推移1949~1968年度
図1.2福岡県中央児童相談所における通告児童数の内訳1948年度
表1.1福岡県における住宅不足状況
表1.2福岡県における住宅等建築戸数
表1.3乳児院・養護施設・里親の措置費内訳
表1.4福岡県内の児童福祉施設の入所状況1957年1月現在
図1.3福岡県(政令市を含む)における菱護施設・乳児院定員数の推移
表1.5児童相談所の業務
表1.6図1.4里親制度発足から10年間の福岡県里親(家庭数)の推移(各年度末)
表1.7福岡県における里親状況1957年8月1日現在
表1.8福岡県里親実態調査1956年10月1日現在
表1.9児童相談所による新規処理状況(除く北九州市)
図l.5 1964年の全国乳児院退所理由
表1.10福岡県における里親状況1967年10月1日現在

(第2章)
図2.1全国の登録里親家庭数(第2期)
図2.2福岡県中央地区里親会組織率の推移
表2.1福岡県における里子の措置状況の推移
図2.3福岡県における新規里子数の推移
図2.4福岡県保護児童の新規措置の推移
表2.2福岡全県における里親状況
表2.3福岡県岡垣町「広報おかがき」児童記事分類
図2.5里子の男女比と年齢別の延人数
図2.6福岡県における里子の年齢別受託人数 推移
図2.7福岡県における里子の年齢別受託人数 割合
図2.8福岡県登録里親の推移(地区別)
図2.9福岡県における里親に委託された里子数の推移(地区別)

(第3章)
図3.1登録里親・保護受託者の推移(1984~1997年度)
表3.1平成6年12月1日の里親会会員状況
表3.2図3.2福岡県の里親状況(1985~1997年度)
図3.3福岡県児童相談所における措置解除変更の推移
図3.4福岡県里親会発足1969年度から2008年度までの措置解除理由
図3.5福岡県児童相談所管内の新規里子受託と養子縁組の推移
表3.3福岡全県における里親・里子数の推移(1980~1994年度)
表3.4全国里親大会第31回大会と第41回大会の比較
表3.5年度別開催県の里親参加人数比較
表3.6 2大会前後の里親会活動の比較
図3.6福岡全県の保護児童新規措置の推移(1969~2009年)

(第4章)
図4.1全国の登録里親・登録保護受託者の推移(1998~2008年度)
図4.2自助グループどんぐりキッズ活動行事数と参加家庭数の推移
図4.3第4期における福岡全県里親状況の推移
図4.4福岡県里親会中央地区里親の委託状況(養育里親と縁組里親)
図4.5里親家庭の平均所得
図4.6福岡県の里親数・里子数の変化
図4.7福岡県登録里親の里子受託率
図4.8里親申込の動機

【著者紹介】(よしだ・なおこ)社会福祉士・保育士・介護福祉士。吉備国際大学大学院修士課程修了、修士(社会福祉学)。長崎純心大学大学院博士後期課程修了、博士(学術・福祉)。1998年、里親登録。2009年、専門里親登録。2010年、小規模住居型児童養育事業(吉田ホーム)開設。著書は他に『里子・里親という家族 : ファミリーホームで生きる子どもたち』(2012年、大空社)、『里親になりませんか : 子どもを救う制度と周辺知識』(2020年、日本法令)がある。

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