川田貞治郎の「教育的治療学」の体系化とその教育的・保護的性格に関する研究
小田原家庭学園における着想から藤倉学園における実践まで
発行年月:2013年11月(大空社刊)
価格:7,150円(本体6, 500円+税10%)
ISBN:978-4-283-00800-7
体裁:A5判・266頁・上製・函入
「教育的治療学」その体系化過程と理論・方法・実践の全貌を初めて提示
川田貞次郎(かわだ・ていじろう、1879-1959)は
第二次世界大戦以前に民間が創設した精神薄弱児入所施設の 一つで、大正8(1919)年6月7日、東京府大島に設立された財団法人藤倉学園(現在の社会福祉法人藤倉学園)において、設立時から彼が死去するまで常任理事・学園長として施設運営にあたった人物である。とりわけ学園長としての彼の業績は、藤倉学園での教育と保護の理論ならびに方法を教育的治療学と命名し、形成ならびに体系化したことであった。(…)
本書では、戦前の精神薄弱児に対する教育と社会事業の制度が未整備な中にあった精神薄弱児施設での教育と保護の実践およびその実態を探るべく、川田がいかなる理由から「教育的治療学」を構想、体系化し、それはどのような内容と方法で構成されていたのか、また彼の教育的治療学が、当時の精神薄弱児施設での教育と保護の理論ならびに方法としていかなる意義があったのかについて明らかにすることを目的とする。(序章 本書の目的より)
戦後における障害児(者)教育・福祉史研究の到達点の一つ 中村満紀男(筑波大学名誉教授)
川田貞治郎の実践と研究についてはこれまでも、 一定の範囲でかなり知られていた。高野さんの著書は、直接には、川田の独創的な 「教育治療学」 に焦点を当てて、その生成過程を小田原および水戸時代にまで遡りながら考証し、さらに、当時、世界の最高水準にあったアメリカ精神薄弱研究に身をおいての構想立案、帰国後の体系化の努力と戦時下における一部修正までの川田を辿ることに成功した。こうして、川田の教育治療学の体系化の過程の全貌が初めて提示されたのである。(序より)
【目次】
序 中村満紀男/はしがき
序章 本書の目的・課題と方法
第一節 本書の目的・研究の課題と方法
1 本書の目的/2 先行研究/3 本書の課題と方法/4 用語
第二節 本書の構成と資料
1 検討対象の時期と時期区分/2 構成/3 資料
第一章 感化教育における心練学の萌芽形成と適用対象としての低能児教育への転換
第一節 不良少年と低能児を対象とした心練学
1 感化教育としての心練学の萌芽
2 水戸友会時代の心練学の着想とその対象としての低能児と不良少年
第二節 低能児教育としての心練の実施とその限界
1 第三次小学校令第17条各種学校としての日本心育園の創設とその背景
2 日本心育園における低能児教育の内容とその実際
3 低能児教育としての心練の変化と教育方法としての探究
第二章 アメリカ合衆国精神薄弱者施設における教育的治療学の構想
第一節 教育的治療学へのアメリカ精神薄弱研究の導入
1 川田の滞在機関の選択理由と滞在目的
2 H.H.ゴダードの精神薄弱児遺伝の法則と分類基準の導入
3 絵画分析とセガン・ゴダード版フォームボードによる精神薄弱診断方法の導入
第二節 教育的治療学体系へのアメリカ精神薄弱者施設論の影響
1 施設対象論と教育的治療学の対象の構想
2 施設機能論の構想
3 教育的治療学の内容と方法の構想
第三章 教育的治療学の体系化・内容の変化とその意義
第一節 教育的治療学の体系とその意義
1 教育的治療学の体系の変化と目的
2 教育的治療学の対象設定と集団編成の変化
3 教育的治療学の構成内容・方法とその意義
第二節 藤倉学園創設期における教育的治療学の教育的・保護的性格
1 藤倉学園の創設経緯とその目的
2 藤倉学園創設期における入所対象者の想定とその実態
3 保護環境下での退所を前提とした施設機能論
4 教育的治療学の教育的・保護的性格とその実際
第三節 昭和戦中期の教育的治療学における施設内保護論の本格化とその背景
1 昭和戦中期藤倉学園の入所対象者の想定とその実態
2 退所条件の限定と施設内保護の本格化
3 昭和戦中期の教育的治療学の教育的・保護的性格とその実際
終章 まとめと今後の課題
第一節 まとめ
1 教育的治療学の形成過程とその変化
2 教育的治療学におけるアメリカ精神薄弱研究の影響
3 教育的治療学の教育的・保護的性格とその変化
第二節 今後の課題
文献
【図表目次】
(序章)
Table 1 検討対象機関と川田の勤務・滞在期間
(第一章)
Table 1-1 明治40年代の幼年保護会感化部日課
Figure 1-1 心練学における肉体と精神との関係
Table 1-2 小田原家庭学園時代の心練の内容と方法
Figure 1-2 心練学の体系
Figure 1-3 単・雑と広い・狭いの観念を形成する心練
Figure 1-4 簡単な概念を形成するための心練
Table 1-3 富士川游らの精神異常の分類表
Table 1-4 榊保三郎の異常精神状態の分類表
Table 1-5 心練学の指導内容
Table 1-6 川田貞治郎・とく結婚の日のめあて
Table 1-7 明治末期から大正初期の入学者(入所者)数
Table 1-8 明治末期から大正初期の職員数
Table 1-9 日本心育園と尋常小学校(明治40年)の教科
(第二章)
Table 2-1 川田貞治郎のアメリカ合衆国における滞在先とその期間
Table 2-2 川田貞治郎・アメリカ精神薄弱者研究協会による精神薄弱分類表
Table 2-3 川田貞治郎が『児童研究』に発表したIQ分類基準
Table 2-4 E. AドルによるIQによる精神薄弱分類基準
Figure 2-1 ゴダード版フォームボード
Figure 2-2 ウィットーマー版フォームボード
Table 2-5 川田とゴダードのフォームボード平均作業時間
Table 2-6 ヴァインランド施設の私費生・州費生数(1891~1917)
Table 2-7 ポーク施設の入所時年齢(1887~1917)
Table 2-8 ヴァインランド施設の入所児数の推移(1891~1917)
Table 2-9 ポーク施設入所者数の推移(1898~1918)
Table 2-10 1917年頃のヴァインランド施設の日課
Table 2-11 施設内雇用者数(1898~1918)
(第三章)
Figure 3-1 教育的治療学体系(藤倉学園創設期)
Figure 3-2 教育的治療学体系(昭和戦中期)
Table 3-1 教育的治療学の構成内容とその対象(藤倉学園創設期)
Table 3-2 教育的治療学における精神薄弱の新分類
Table 3-3 教育的治療学の構成内容とその対象(昭和戦中期)
Table 3-4 直感訓練の目的と方法
Figure 3-3 数図
Figure 3-4 数板
Table 3-5 数訓練
Figure 3-5 片仮名作字型
Table 3-6 作字型教具
Table 3-7 財団法人藤倉学園役員名簿
Table 3-8 藤倉学園への入所時年齢(大正8[1919] ~15[1926]年度)
Table 3-9 大正13年度までの藤倉学園入所者の障害程度
Table 3-10 滝乃川学園入所者年齢(大正9[1920]年度)
Table 3-11 滝乃川学園入所者の精神年齢の分布(大正9[1920]年度)
Table 3-12 大正期藤倉学園の入所者数の推移
Table 3-13 大正期滝乃川学園の入所者の推移
Table 3-14 滝乃川学園入所年数(大正9[1920]年度)
Table 3-15 藤倉学園日課(大正9[1920]年度)
Table 3-16 滝乃川学園日課(大正15[1926]年度)
Table 3-17 藤倉学園大正9年度時間割
Table 3-18 大正15年度藤倉学園時間割
Table 3-19 藤倉学園入所者年齢(昭和12[1937]年度)
Table 3-20 藤倉学園入所者区分(自費、公費、無料)(昭和12[1937]~15[1940]年度)
Table 3-21 滝乃川学園入所者年齢(昭和10[1935]年度)
Table 3-22 藤倉学園入所者数変動(昭和2 [1927]~20[1945]年度)
Table 3-23 藤倉学園入所年数(昭和12[1937]年度)
Table 3-24 滝乃川学園入所者変動(昭和2[1927] ~ 14[1939]年度)
Table 3-25 藤倉学園日課(昭和16[1941]年度)
Table 3-26 滝乃川学園日課(昭和9年度)
Table 3-27 藤倉学園時間割(昭和16年度)
著者紹介:(たかの・さとこ)筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科修了、博士(心身障害学)。目白大学人間学部専任講師を経て、聖徳大学児童学部専任講師(刊行当時)。2021年より東洋大学文学部教授。編著書に『特別支援学校教師になるには』(ぺりかん社)、論文に「藤倉学園創設期における川田貞治郎の「教育的治療学」の内容とその背景」(「社会事業史研究」)、「川田貞治郎の「教育的治療学」の体系と内容の変化―藤倉学園創設期から昭和戦中期を中心として―」(「障害科学研究」)など。
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