江戸時代庶民文庫 83巻 般若心経絵抄ほか
第2期第5回(全5巻・81~85巻)配本所収
発行年月:2020年5月
価格:20,900円(本体19,000円+税10%)
ISBN:978-4-86688-083-9
体裁:A5判・430頁・上製・クロス装
特記:分売可
【ジャンル】書名(主な作者/刊行年など)
【仏教(般若心経)】
○般若心経絵抄(玉川雲起/天明2年)
○般若心経和解(作者不明/天明2年)
○般若心経鈔図会(辻本基定/天保15年
○般若心経和訓図会(山田野亭・松川半山/天保15年)
○二時食作法文諺註余説・般若心経略諺註(十阿/嘉永1年以前)
○般若心経絵入講釈(近沢幸山・一光斎芳盛/万延1年)
○般若心経絵抄(玉川雲起/天明2年)
般若心経の絵入り注釈書。正式名称を「摩謌般若」「波羅蜜多」「心経」の三つに分け、例えば「摩謌般若」とは「大智恵」のことで人々に本来備わったものだが、小智にさえぎられて大智恵を見ることができないと諭して大智・小智などを順々に読み解くように、それぞれの意味を詳しく解説。「観自在菩薩…」以下の般若心経本文を一句ないし数句からなる二五段に分けて施注するが、特に「照見五蘊皆空、度一切苦厄」「不生不滅、不垢不浄、不増不減」「乃至、無老死、亦無老死尽」の三カ所は頁を費やして詳しく解説。本文中に挿絵4葉(盗賊・往来の人々・酒宴遊興・恒河)を挿入。
○般若心経和解(作者不明/天明2年)
般若心経の題号と、本文各句の語注や文意を詳しく解説した注釈書。「文字学者の為にせず。教相(仏教諸宗の教義理論)の名目(呼称)も少なし。簡にして要なり。言文なさず麁にして惑なし」(序)。本文3分の1を費やして「摩訶般若波羅蜜多心経」を注し、題号の解説に重点を置くのが特徴。「心経」とは「唯ただ自みずからの心を説とき顕あらわした」もので、これは心経に限らず「一切の経論・祖録、皆自心を説顕たるものなり」と喝破。「照見五蘊皆空、度一切苦厄」と「無苦・集・滅・道。無智、亦無得」の二段の注釈が長文であり、前掲『般若心経絵抄』と比重の置き方に相違がある。注釈は総じて口語調。序文を書いた知真庵は、江戸中期、天明頃の僧侶(京都清閑寺住職)で、手島堵庵に師事した心学者。
○般若心経鈔図会(辻本基定/天保15年)
絵入り注釈書。「摩訶般若波羅蜜多心経」の題号を詳しく説き、「般若」は智恵を意味するが、これは世間で言う「分別・才覚」などの「小智」とは別次元の「大智」であり、「心経」とは「般若の心」、そして、仏がこの経を説いたのは「本覚の智恵をもつて一切の衆生をして妄心・もふねん(妄念)を除き正しめて生死大海のこの岸をわかれて不生不滅のねはん(涅槃)の彼岸にいたらしめて、衆生をして本心・本性を見せしめんがためなり」と述べ、続けて「此法はうけてたもてる玉なれば、永きよてらす宝成けり」以下14首の和歌(道歌)を掲げるように、注釈文の随所に道歌を数多く列挙するのが特徴。「釈尊と弟子」「白象に乗る遊女江口(西行や一休が遊女とやりとりする問答歌を掲げる)」「花見」など挿絵4葉を載せる。
○般若心経和訓図会(山田野亭・松川半山/天保15年)
幕末から明治初年にかけて往来物や通俗教訓書を多数手掛けた大坂の作家と絵師、すなわち山田野亭と松川半山による絵入り注釈書。「此書は、般若心経を真読・訓読両点とも平仮名付にし、且また、一字一句ごとに委しく註解し、悉く絵図を加へし珍書なり。夫、この心経は大般若経六百巻の中より肝要の文を抜ぬき萃いだせし妙経にて、読誦する人は福を増し、禍をはらひ、心経功力の広大なることをしりやすき書物、これにまさる書なし」(巻末広告)。上下2巻。注釈には、平易かつ丁寧な語注・通釈のほかに、しばしば故事を添えるため、「深草の少将百夜通い」や「巴峡の猿(母猿断腸の故事)」など多くの挿絵(15図)を施すのが特徴。下巻末尾に「秘密般若略解」と題して「羯諦羯諦…」以下17字の真言の大意を載せ、梵字の表記(神呪梵字)も示す。
○二時食作法文諺註余説・般若心経略諺註(十阿/嘉永1年以前)
前半に「摩訶般若波羅蜜多心経略諺註」、後半に「食時作法文諺註余説」を収録した仏書。前半は般若心経の簡潔・平易な注釈書。古来の訳本が11種あり、中でも鳩摩羅什訳(『摩訶般若波羅蜜経』)と玄奘三蔵訳(『般若波羅蜜多心経』)の2訳が流布するが、本書が玄奘訳に基づくとする。注釈文の長さは各段とも1・2頁でほぼ均等だが、「舎利子。是諸法空相」の段は5頁超で特に詳しい。しばしば概念を図式化するのが特長(小乗七十五法図、大乗百法図、五蘊之図、四諦図など)。後半「食時作法文諺註余説」は、律家(律宗)における食作法(食事の際の宗教的儀式・作法)を問答形式で解説したもの。
○般若心経絵入講釈(近沢幸山・一光斎芳盛/万延1年)
前掲の山田野亭作『般若心経和訓図会』の注釈と挿絵を模倣して編んだ絵入り注釈書。上段頭書にしばしば『和訓図会』と同様の挿絵37葉と詞ことばがき書、また、般若心経の書き下し文を載せ、下段本文欄には『和訓図会』と同じ段落で、ほぼ同文か一部割愛または改編した注釈文を割注形式で載せる(基本的にこの体裁は経典余師にならったもの)。例えば「深草少将と小野小町」の故事を「平清盛と常盤御前」に差し替えたり、越前国朝倉郷の逸話を下総国葛飾郡の「八幡知らずの森」の話に改編してある。
解題者紹介:往来物研究家、往来物倶楽部代表、立正大学・人間総合科学大学非常勤講師、学術博士。(原版作者は各巻参照)
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