第2集 ロシア文化の森へ  日本におけるロシア文化研究の進展
   ―比較文化の総合研究― 

編著 柳富子
体裁:A5版 上製 クロス装 750ページ
定価:本体 8.000円+税



文学・文化の研究は、一国の枠内で考察する手堅い手法が保持されているかたわら、より広い自由な国際的視野から事象を眺め、吟味しようとする傾向が勢いを増しつつあることも争えぬ事実である。それは自ずと学際的視野をも取り込み、従来想像だにしなかった局面も扱われるようになった。
そして『ロシア文化の森へ』第一集で、三十六編の論文(一部翻訳)を収録。それはロシアの十八世紀から二十世紀までの文学、美術、音楽、バレエ、あるいは亡命文学者の作品や移動、交流等々を、ヨーロッパ、アメリカ、日本と関連させつつ、各自の研究に即して論ずる形をとったものであり、全体として、通時的のみならず、横断的にロシアの文学、文化現象を読み解こうとする狙いをもつ、いわば、生きた動態として、脱国境的に事象を掴んで世に問おうとしたのである。
今回の『ロシア文化の森へ』第二集では、論文は四十八編。巻頭の「中世におけるスラブ世界とヨーロッパ世界」という巨視的視野に立つ論考から、比較民俗学的考察、また以前と同様ロシア十八世紀から二十世紀にいたる文学、演劇、美術、音楽、バレエ、映画、あるいは亡命文学者の作品や移動、外国滞在、交流等々を、ロシアとヨーロッパ、アメリカ、日本、中国等と関連させつつ、各自の研究に即して論じているのだが、全体として古い時代に遡る一方で、二十世紀の後半から現代までもが研究射程に入ってきたことも、特筆してよいかと思う。
末尾に日本の比較文学研究がどのように展開してきたのか、早稲田の比較文学研究室はそうした流れのなかでどのように位置づけられるのかを原点的に確認する意味で私がかつて纏めた論文を掲載した。

【収録内容】
 序  柳富子

第一部 ロシア文化と外国―関係の諸相

川端 香男里  中世におけるスラヴ世界とヨーロッパ世界
栗原 成郎   ロシア産育習俗考
柳 富子    スマローコフの『ハムレット』(一七四八年)―死から生への変容
佐々木 寛   ロシアにおけるダンテ概観―『神曲』を中心に
岸本 福子   ジュコーフスキーの翻訳バラード『杯』について
鈴木 健司   対話するオードとエレジー―プーシキンの「エレジー」ジャンル
森田 敦子   プーシキン『ボリース・ゴドゥノーフ』における民衆像
伊東 一郎   ゴーゴリ―ウクライナ・バロック―民衆文化
坂庭 淳史   キュスティーヌ『一八三九年のロシア』とその受容
南平 かおり  カロリーナ・パヴロワの『ファンタスマゴーリー』について
相沢 直樹   スキアヴォーニに死す
佐藤 清一郎  ツルゲーネフと音楽―ロシアと西欧の狭間で
粕谷 典子   散文詩をめぐって―ベルトラン、ボードレール、トゥルゲーネフ
藤沼 敦子   『マッチ売りの少女』とドストエフスキー
上野 理恵   夢想のオリエント―クズネツォフの《日本版画のある静物》をめぐって
長井 淳    スクリャービンの《秘儀》のイデーとブラヴァツキー神智学
村山 久美子  ゴレイゾーフスキーのアヴァンギャルド・バレエ『美しきヨセフ』
佐藤 純一   ゴーリキイの見たエセーニン
草野 慶子   イサドラ・ダンカンからバレエ・リュスへ―ロシア象徴主義の舞踊観
小西 昌隆   アリスからアーニャへ―『不思議の国のアリス』のナボコフ訳
上田 洋子   クルジジャノフスキイ『文字殺しクラブ』における『ハムレット』
吉見 薫    リルケの『マリーナ悲歌』についての一考察
柳 富子    魯迅とロシア―授受関係の構図
八木 君人   Ю・トゥイニャーノフにおけるハイネ
菊池 嘉人   ミハイル・ブルガーコフの『ドン・キホーテ』
長谷川 麻子  交差点の住人と越境する詩人―ロシアにおけるカヴァフィスとブロツキー
桜井 厚二   ソ連スパイ小説の神話
神岡 理恵子  精神病院とカーニバル
貝澤 哉    現代ロシアの文化研究とポストモダニズムにおけるバフチン理解
藤沼 貴    悲恋の構造


第二部 日本とロシアの交流

中村 喜和    ロシアから伝わった仏露辞書の話―鎖国時代の日露文化交流の一面
沢田 和彦    黒野義文伝―東京外語露語科からペテルブルグ大学東洋学部へ
小林 潔     日本学者ローゼンベルクとロシア式漢字排列法
笠間 啓治    知られざる日本学者マリアンナ・ツィンをめぐる日本人たち
阿部 軍治    百姓思想家江渡狄嶺とトルストイ
籾内 裕子    硯友社文学に見られるツルゲーネフ受容の様相―柳川春葉の場合
木村 敦夫    島村抱月の「二元の道」
塚原 孝     日本におけるアルツィバーシェフ―「サーニン」翻訳以前
源 貴志     アルツィバーシェフ紹介の一側面―鴎外と二葉亭をつなぐもの
国松 夏紀    芥川龍之介とドストエフスキイ
中本 信幸    アンナ・アフマートワの日本初訳をめぐって―大泉黒石の訳業
佐藤 千登勢  日本における二つのソ連映画の受容をめぐって
小山 ブリジット 井上靖の「おろしや国酔夢譚」考
井桁 貞義    ドストエフスキイと黒澤明―『白痴』をめぐる語らい
高柳 聡子    女性作家というヴィジョン―現代文学における日本とロシアの場合
鈴木 正美    多和田葉子あるいはカモメラップ入りの干しぶどう―言葉と音のあわいで
田村 充正    ロシアの日本文学―古典篇
柳 富子     ロシア人の日本論―その一側面


柳 富子  日本における比較文学研究の史的展望
執筆者のプロフィール


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